—ブランドは、商品の説明をやめた瞬間に強くなる。—

こんにちは。THINK CREATIONの鍬田和彦です。

私は約30年、デザインの仕事に携わってきました。

その中でずっと考えていることがあります。

それは、デザインの役割は、見た目をきれいにすることではないということです。

商品が持つ価値を見つけ、伝わる形に変え、選ばれる理由をつくる。

今回は、スーパーの豆腐売り場で異彩を放つ「男前豆腐」を、ブランディングと経営の視点から考察してみます。

1. 豆腐を売っているのに、豆腐らしくない。

豆腐と聞いて、何を思い浮かべますか?

白い。
四角い。
健康的。
毎日の食卓にある。
価格は手頃。

多くの人が、似たようなイメージを持つのではないでしょうか。

ところが、男前豆腐店の商品には「男前豆腐」「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」といった、従来の豆腐のイメージを裏切る名前があります。

2006年にはテレビ東京の「カンブリア宮殿」でも取り上げられ、ネーミングやパッケージだけでなく、味や商品づくりへのこだわりも紹介されました。

つまり、単に目立つパッケージをつくった会社ではありません。

商品そのものの価値に、今までとは違う見せ方を掛け合わせた。

ここが重要だと思います。

2. ブランドは、名前を聞いた瞬間から始まっている。

「絹ごし豆腐」と聞いて、特定のメーカーを思い浮かべる人はどれくらいいるでしょうか。

では、「男前豆腐」と聞いたらどうでしょう。

名前だけで、何か強い個性を感じませんか?

男前という言葉には、見た目のかっこよさだけでなく、潔さやこだわり、一本筋の通った姿勢といったイメージがあります。

もちろん、受け取り方は人それぞれです。

しかし、たった数文字で、商品の向こう側にあるキャラクターまで想像させてしまう。

これは、ブランド設計として非常に興味深いことです。

一般的な商品開発では、商品の特徴を整理し、それをわかりやすく伝える名前を考えます。

一方で、男前豆腐は、名前そのものが話題の入口になっています。

「何それ?」
「どんな豆腐なの?」
「ちょっと買ってみようか」

商品を知る前に、興味が生まれる。

この順番が、強いのです。

3. デザインは、売り場で営業している。

私は、パッケージデザインを「無言の営業マン」だと考えています。

スーパーの売り場では、商品を一つひとつ説明してくれる営業担当者はいません。

数多くの商品が並び、限られた時間の中で選ばれなければならない。

そのとき、パッケージには大きく三つの役割があります。

  • 気づかせる。 数ある商品の中で、目を止めてもらう。
  • 興味を持たせる。 何が違うのか、知りたいと思わせる。
  • 選ぶ理由をつくる。 価格だけではない価値を感じてもらう。

男前豆腐の個性は、この三つを一貫して考えるうえで参考になります。

もし、同じ商品を無難な名前と無難なパッケージで販売していたら。

今と同じように記憶に残っていたでしょうか。

私は、そこにデザインの大きな可能性を感じます。

デザインは、商品の最後の仕上げではありません。

商品が選ばれる確率を変える、経営の仕事なのです。

4. 目立つだけでは、ブランドにならない。

ここで、もう一つ大切なことがあります。

奇抜な名前をつければ売れるのか。

派手なパッケージにすればブランドになるのか。

答えは、NOです。

一度目を引くことと、繰り返し選ばれることは違います。

話題になっても、商品に魅力がなければ、次の購入にはつながりません。

男前豆腐店の事例を考えるとき、私はネーミングやビジュアルだけでなく、豆腐そのものへのこだわり、商品ごとの個性、企業としての世界観まで含めて見る必要があると思います。

つまり、重要なのは表現の奇抜さではなく、商品・言葉・デザイン・体験が同じ方向を向いていることです。

ブランドはロゴをつくれば完成するものではありません。

広告を出したら完成するものでもありません。

お客様が商品に触れ、購入し、使い、誰かに話したくなる。

その一つひとつの体験が、ブランドをつくっていきます。

5. 私が経営者なら、ここから何を学ぶか。

男前豆腐の事例から、中小企業の経営者が学べることは何でしょうか。

私は、三つあると思います。

① 競合と同じ土俵で戦わない

同じ品質、同じ見せ方、同じ売り方をしていれば、最終的には価格で比較されやすくなります。

もちろん、品質や価格は重要です。

しかし、それだけでは比較表の中の一項目になってしまう。

自社にしかない価値を見つけ、競合とは違う選ばれ方を設計する。

そこにブランド戦略の意味があります。

② 自社の当たり前を疑う

経営者や社員にとって当たり前のことが、お客様にとっても当たり前とは限りません。

長年続けてきた商品。
昔から使っている会社名。
業界では常識とされているデザイン。

それらを一度、外から見てみる。

もしかすると、自社が気づいていない魅力が眠っているかもしれません。

③ ブランドを、会社の資産にする

私が特に重要だと考えているのは、ここです。

ブランドが強くなると、商品名や会社名が記憶され、指名で選ばれる可能性が高まります。

営業時の説明がしやすくなる。
新規顧客との接点が生まれる。
価格以外の価値を伝えやすくなる。
採用や企業への信頼にも波及する可能性がある。

もちろん、ブランドだけですべてが解決するわけではありません。

商品力、利益構造、販売体制、顧客対応などが伴って初めて、ブランドは事業の成果につながります。

だからこそ私は、ブランディングを単なる広告やデザインの話で終わらせたくないのです。

6. ブランドを変えることは、経営の可能性を変えること。

私は、ブランディングの仕事をするとき、最初からロゴやWebサイトの話をするわけではありません。

まず考えるのは、

「この会社は、本当は何で選ばれるべきなのか?」

ということです。

何が強みなのか。
誰にとって価値があるのか。
競合と何が違うのか。
その価値を、どうすれば正しく伝えられるのか。

そして、その答えを商品、サービス、営業、Web、デザインへとつなげていきます。

男前豆腐のように、既存のカテゴリーに新しい見方を持ち込むことができれば、戦い方そのものが変わるかもしれません。

大企業だけの話ではありません。

むしろ、限られた経営資源で勝負する中小企業こそ、自社の価値を明確にする必要があると考えています。

私はこれを、デザイン経営による企業価値の再創造と捉えています。

ブランドは、見た目を飾るためのものではない。

会社の価値を見つけ、伝え、選ばれる理由に変えていくためのものです。

男前豆腐を見て、改めてそんなことを考えました。