堺雅人が演じる乃木憂助は、なぜ人を惹きつけるのか。ベキが貫いた信念とは何だったのか。VIVANTを経営者・クリエイターの視点から読み解く。
2023年に大きな話題を呼び、2026年には待望の続編が放送されている日曜劇場『VIVANT』。
堺雅人が演じる乃木憂助、阿部寛が演じる野崎守、二宮和也が演じるノコル、そして物語の重要人物であるベキ。
『VIVANT』の魅力は、予測不能な展開や壮大なスケールだけではない。
登場人物それぞれの信念、組織の論理、そして「誰を信じるのか」という人間の本質に迫るテーマにもある。
私はクリエイティブの仕事に長く携わり、企業や商品のブランディングに取り組んできた。
そんな立場から『VIVANT』を見ていると、経営やブランドづくりに通じるものが見えてくる。
今回考察したいのは、人はなぜ誰かを信じ、組織に共感し、その行動に心を動かされるのか ということだ。
1. 乃木憂助に学ぶ「人は見た目だけでは判断できない」というブランディングの本質
『VIVANT』の主人公、乃木憂助。
堺雅人が演じる乃木は、表向きの姿と、その内側に秘めた能力や背景とのギャップが印象的な人物だ。
物語が進むにつれ、視聴者は目の前に見えている姿だけでは、その人物の本質を理解できないことに気づかされる。
これは企業のブランディングにも通じる。
ホームページが美しい会社。
立派な企業理念を掲げている会社。
有名な商品を販売している会社。
それだけで、本当に信頼できる企業かどうかを判断できるだろうか。
企業にも、外から見えるイメージと、実際に持っている強みや価値がある。
問題は、その両者が一致しているかどうかだ。
どれだけ優れた技術があっても、顧客に伝わらなければ選ばれにくい。
反対に、広告やデザインで魅力的に見せても、実態が伴わなければ長期的な信頼は得られない。
ブランディングとは、企業をよく見せるためだけの仕事ではない。
企業の本質的な価値を発見し、それを正しく伝わる形にすること。
乃木憂助という人物の多面的な姿は、企業が持つ価値と、その見せ方について考えるきっかけになる。
2. ベキの信念から考える「人を動かすブランド」の条件
『VIVANT』の中でも強い印象を残す人物が、役所広司が演じるベキだ。
ベキという人物を考えるとき、単純に善悪だけで整理することは難しい。
彼の行動の背景には、過去の経験や信念、そして自分が守ろうとするものがある。
ここで考えたいのは、人が行動する理由だ。
企業も同じように、利益を追求するだけでは組織としての求心力を十分に説明できない。
もちろん、企業にとって利益は不可欠だ。
しかし、社員がその会社で働き続ける理由や、顧客が競合ではなくその会社を選ぶ理由は、利益だけではない。
「この会社は何を大切にしているのか」
「この経営者は何を実現しようとしているのか」
「自分たちは、何のために仕事をしているのか」
こうした問いに対する答えが、組織の方向性をつくる。
経営理念やミッションが重要なのは、きれいな言葉を掲げるためではない。
判断に迷ったとき、何を優先するのかを決める基準になるからだ。
ただし、信念が強ければ何をしてもよいわけではない。
企業には、顧客や社会への責任がある。
大切なのは、信念を持つことと、その信念を行動で示すことの両方だ。
人を動かすブランドには、伝えたいメッセージだけでなく、信じるに値する行動がある。
3. 乃木憂助と野崎守に見る「信頼」はどう生まれるのか
堺雅人演じる乃木憂助と、阿部寛演じる野崎守。
立場も役割も異なる二人の関係は、『VIVANT』の見どころのひとつだ。
相手の言葉をそのまま信じることが難しい状況でも、相手の行動や判断を見ながら関係性が変化していく。
企業経営でも、信頼は一度の説明や広告だけで完成するものではない。
約束を守る。
問題が起きたときに誠実に対応する。
相手の利益も考える。
できることと、できないことを明確に伝える。
こうした行動の積み重ねが、信頼を形成する。
企業のホームページに「お客様第一」と書くことは簡単だ。
しかし、納期が厳しいときにも誠実に対応できるか。
トラブルが発生したときに責任を持って解決できるか。
目先の売上よりも、顧客との長期的な関係を優先できるか。
本当にブランドが問われるのは、むしろそうした場面だろう。
企業のブランド価値は、広告の中だけに存在するわけではない。
営業担当者の言葉、社員の対応、商品やサービスの品質、購入後のフォロー。
顧客が企業と接するすべての場面で、ブランドはつくられていく。
4. 別班という組織から考える「強い組織」のつくり方
『VIVANT』を語るうえで欠かせないキーワードが「別班」だ。
乃木憂助の正体に関わるこの組織は、物語に大きな緊張感と謎をもたらしている。
ここから企業経営について考えてみたい。
強い組織とは、単に優秀な人材が集まった組織なのだろうか。
私は、それだけでは不十分だと考えている。
個々の能力が高くても、全員が違う方向を向いていれば、組織として大きな成果を出すことは難しい。
組織には、共通の目的が必要だ。
そして、その目的を実現するために、誰が何を担い、どのような判断をするのかが明確になっていなければならない。
中小企業では、経営者の個人的な能力や人脈によって事業が成長しているケースも多い。
しかし、社長ひとりの判断に依存しすぎると、事業拡大や人材育成の壁にぶつかることがある。
経営者の考えを組織に共有し、社員が自ら判断できる仕組みをつくる。
それが、持続的に成長する組織の基盤になる。
ブランドづくりも同じだ。
ロゴや広告のデザインを統一するだけでは、ブランドは完成しない。
営業、採用、商品開発、顧客対応など、企業のあらゆる活動が共通の価値観につながっていることが重要になる。
強いブランドは、強い組織によって支えられている。
5. ノコルや黒須駿から考える「個人の価値」と組織の関係
二宮和也が演じるノコル、松坂桃李が演じる黒須駿。
それぞれ異なる立場や背景を持つ人物が登場することで、『VIVANT』では個人の信念と組織の目的が交差する。
企業でも、社員一人ひとりが持つ能力や個性をどう生かすかは重要な経営課題だ。
全員を同じ考え方、同じ働き方にそろえることが、必ずしも強い組織につながるわけではない。
営業が得意な人。
技術を磨くことに長けた人。
顧客の気持ちを理解することが得意な人。
新しい発想を生み出すことが得意な人。
それぞれの強みを理解し、適切な役割を与えることで、個人の能力は組織の価値に変わる。
これは採用ブランディングにもつながる。
企業が採用活動で伝えるべきなのは、給与や休日などの条件だけではない。
どんな人が活躍できるのか。
どんな価値観を大切にしているのか。
入社した人が、どのように成長できるのか。
こうした情報が明確になれば、企業と求職者の相互理解が深まる。
ブランドは顧客だけに向けてつくるものではない。
社員や求職者にとっても、「この会社で働きたい」と思える理由をつくるものなのだ。
6. なぜ『VIVANT』は人を惹きつけるのか? 伏線とブランド設計の共通点
『VIVANT』が話題を呼んだ理由のひとつに、謎が謎を呼ぶストーリー展開や、後から意味が見えてくる伏線の存在がある。
何気ない描写が、後になって別の意味を持つ。
登場人物への印象が、物語の進行とともに変わる。
視聴者は、自分なりに情報を整理し、次の展開を予想しながら作品に参加していく。
ここには、ブランド体験を考えるうえで興味深いヒントがある。
優れたブランドは、ロゴや広告だけで印象を決めるのではない。
商品を知る。
ホームページを見る。
店舗を訪れる。
スタッフと話す。
実際に商品を使う。
こうした複数の接点を通じて、顧客の中にブランドへの理解が積み重なっていく。
それぞれの接点がバラバラでは、企業の魅力は十分に伝わらない。
一貫したメッセージや体験があることで、顧客はその企業らしさを理解し、記憶する。
もちろん、ドラマの伏線と企業のブランディングは同じものではない。
しかし、情報をどの順番で伝え、どんな体験を通じて理解を深めてもらうかという点では、共通する考え方がある。
ブランド設計とは、企業が伝えたいことを一方的に発信するだけではなく、顧客がその価値を理解し、納得できる体験を設計することでもある。
7. 良い商品なのに売れない会社が、VIVANTから学べること
ここまで、乃木憂助、ベキ、野崎守、ノコル、黒須駿、そして別班という組織を手がかりに、経営とブランディングについて考えてきた。
では、実際の企業経営にどう生かせるのか。
私が中小企業のブランディングで重要だと考えているのは、次の3つだ。
① 自社の本当の強みを知る
競合と比較して、自社にしかない価値は何か。
技術力なのか。
顧客との関係性なのか。
独自のノウハウなのか。
経営者の経験なのか。
まずは、自社が持っている価値を正しく把握することが必要だ。
② 選ばれる理由を明確にする
強みがあっても、それが顧客にとってどんなメリットになるのかが伝わらなければ、購買にはつながりにくい。
「高品質です」だけではなく、なぜその品質が実現できるのか。
競合と何が違うのか。
顧客のどんな課題を解決できるのか。
その答えを、商品設計や営業資料、ホームページに一貫して反映する。
③ ブランドを売上・採用・信用につなげる
ブランディングは、見た目を整えて終わるものではない。
問い合わせが増えるか。
商談で自社の強みが伝わるか。
採用で共感してくれる人が集まるか。
顧客との継続的な関係が生まれるか。
こうした事業上の成果につなげてこそ、経営に貢献するブランディングになる。
企業の中に眠っている価値を発見し、顧客に伝わる形に変え、事業の成長へつなげていく。
それが、私が取り組んでいる仕事だ。
まとめ|VIVANTが問いかける「信頼」と、企業ブランドの未来
『VIVANT』は、乃木憂助の正体や別班の謎、ベキの信念、野崎守との関係など、さまざまな要素が絡み合う物語だ。
その魅力を経営・ブランディングの視点から考察すると、企業にも通じるテーマが見えてくる。
- 表面的なイメージだけでは、本当の価値は伝わらない。
- 人を動かすには、共感できる理由と信頼に値する行動が必要だ。
- 強い組織には、共通の目的と、それを実現する仕組みがある。
- 個人の強みを生かすことが、組織の価値につながる。
- ブランドは、顧客との接点や体験の積み重ねによって形成される。
企業が本当に目指すべきなのは、知名度を上げることだけではない。
顧客に選ばれ、社員に共感され、社会から信頼される存在になることだ。
そのためには、企業の本質を見つめ直し、価値を整理し、伝わる形に変えていく必要がある。
私は、ブランディングを単なるデザイン制作だとは考えていない。
企業の可能性を発見し、ブランドや仕組みを通じて価値を形にし、売上・採用・信用・企業価値へとつなげる。
それが、THINKの考えるデザイン経営だ。
ブランドは、見せ方を変えるだけでは強くならない。企業そのものの価値を見つめ直すことから始まる。
『VIVANT』を見ながら、あなたは何を感じただろうか。
乃木憂助の判断、ベキの信念、野崎守との信頼関係。
そこに描かれる人間や組織の姿は、私たち自身の仕事や経営を考えるヒントにもなる。
THINK NOTE|鍬田和彦
企業の可能性を見つけ、価値へ変える。
THINKは、ブランディングとデザイン経営を通じて、企業の売上・採用・信用・企業価値の向上を支援しています。

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